石に咲いた花は、枯れない ── 近江の石塔を訪ねて

2026年7月26日(日)


こんにちは。
川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

今日は早朝から出発し、
日帰りで、滋賀の湖東三山を訪ねてきました。

近江には、良い石造物が数多く残っています。
これまでにも幾度か足を運んできましたが、
今日も湖東の古い石塔を見て回りました。

そうして石塔を見ると、
やはり、基礎に彫られた蓮に目がいきます。

石塔の一番下に、
基礎と呼ばれる四角い石があります。

その側面に、くぼみのある飾りが
彫られていることがあります。
これを、格狭間(こうざま)といいます。

今日見た石塔にも、
その中に蓮華が彫られていました。

咲き開いた一輪の蓮華を刻んだ開蓮華
(あるいは開敷蓮華)や、

一本の根から三本の茎が立ち上がり、
真ん中で花が開いている三茎蓮。

開蓮華も三茎蓮も、
近江式文様と呼ばれる装飾の一つで、
その名のとおり、近江の石塔に多く見られます。

長い年月で表面は摩耗し、
苔に覆われて、見づらくはなっていました。
それでも、花が開いているのは分かります。

この格狭間とは、
もとは仏様を安置する壇に使われた意匠です。

その形が石塔にも取り入れられ、
中に蓮などが彫られるようになりました。

石塔の基礎に格狭間を入れるのは、
塔の下を、仏様の座に見立てて
飾ることでもあります。

だから、その枠に蓮が来る。

蓮は、仏様の花です。
泥の中から、汚れずに咲く。
浄土に咲く花とされ、
亡くなった人が生まれ変わる花の台も、
蓮でかたどられます。

あ、ここからは、石屋の勝手な思いです。

私はこの蓮を見て、
「枯れない花だな」と思いました。

お墓や石塔には、
いつも生花を手向けられるとは限りません。

遠くて通えないこともあれば、
手向ける人がいなくなることもあります。
花はどのみち、数日で枯れます。

けれど、石に彫った花は枯れません。
手向ける人がいてもいなくても、
そこに花が咲いている。

石は、そういう素材です。
生花は数日で枯れ、木は数十年で朽ちますが、
石は何百年も残ります。

花の姿を石に刻めば、
その花もまた、何百年も枯れずに咲く。

鎌倉の昔に誰かが彫った蓮が、
今日、私の目の前で咲いていました。

花を手向けた人も、彫った石工も、
とうにこの世にいません。
それでも花だけは、
枯れずにそこに在り続けている。

こういう石造物に会いに、
私は何度でも、近江へ行くのだと思います。

石に咲いた花は、枯れない。

では。


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