動機は、美しくなくていい。――お墓は「心が変わった日」に会いに行ける場所

2026年5月20日(水)


こんにちは。
川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

前回、酒呑童子の首塚をめぐって、
討った者が、なぜその相手を祀るのか、
ということを書きました。

そこで私は、
祀りというのは、必ずしも美しい心から
始まったわけではないだろう、と書きました。

祟られたくない。
恨まれたくない。
災いがこちらへ返ってきては困る。

供養も塚も、相手のためというより、
自分たちの身を守るための処置だった。

そういう、冷たいところから話を始めました。

今日は、その続きです。

始まりが美しくなかったとして、
祀りは、それきりのものなのか。

そのことを、
お墓という、もっと身近なものに引きつけて
考えてみたいと思います。

すぐには、鎮まらない

日本には古くから、亡くなった人の魂は、
すぐには鎮まらない、という考え方があります。

死んだばかりの魂は、まだ荒ぶっている。
荒魂(あらたま・あらみたま)と呼ばれます。

それが、年月をかけて、
少しずつ和らいでいく。

和魂(にぎたま・にぎみたま)となり、
やがて個としての姿を失って、
先祖の中に溶けていく。

一周忌、三回忌、
七回忌、十三回忌、三十三回忌。

なぜ、これほど長く、
何度も手を合わせ続けるのか。

それは、荒ぶる魂を鎮めるためには、
供養は、一度では済まないからです。

それだけの時間が、
それだけの繰り返しが、
必要なのだと、昔の人は考えた。

そして、その長い時間は、
亡くなった人だけのものではありません。

遺された側の心もまた、
同じだけの時間をかけて、
ゆっくりと変わっていきます。

ただ、ここで私の感じていることを、
正直に書いておきます。

お墓を、亡き人の象徴として、
いつも愛おしく感じられる人ばかりでは、
きっとないと思います。

家族を亡くしたばかりの頃は、
お墓へ行くこと自体が、
辛くて仕方がない人もいるでしょう。

また、お参りや掃除を、億劫に感じている人も、
たくさんいるはずです。

それは、責められることではありません。

人の心は、いつも一定ではない。

亡き人、
すなわちお墓に向き合える時期もあれば、
どうしても向き合えない時期もある。

それが、人というものだと思います。

だからこそ、
心が揺れても揺れなくても、
変わらずそこに在るものが、
大事なのだと思うようになりました。

お墓は、こちらの心が揺れている間も、
変わらず、そこに在り続けます。

行けない時期があっても、待っていてくれます。

待っていてくれる人

ただ、それは、
単なる石ではありません。

石は、あくまでも物です。

待っているのは、その石の向こうにいる、
先に逝ってしまった家族や、先祖です。

お墓に向かって、心の中で語りかける。

もちろん、返事が聞こえるわけではない。

それでも、語りかけられるのは、その向こうに、
聞いてくれる人がいると、信じられるからです。

私たちは、難しい教えを知らなくても、
先に逝った人を、どこかで身近に感じています。

その人は、いなくなったのではない。

お墓という場所で、
こちらの心が向く日を、
ずっと待っていてくれる。

子どもが、大きくなった。
進学した。
所帯を持った。

ふと、それを、亡くなったあの人に
見せてやりたいと思う日が来る。

その日に、行けばいい。
そう思うのです。

前回の記事で私は、
石に残るのは、それを置いた者の意思だ、
と書きました。

酒呑童子の首塚に残っていたのは、
討った側の、保身の意思でした。

冷たいものでした。

けれど、お墓に宿るものは、それとは違います。

そこに在るのは、
こちらを待っていてくれる人の「気配」です。

始まりは、どうあっても構いません。

世間体で建てた墓かもしれない。
家の都合で建てた墓かもしれない。
気が進まないまま建てた墓かもしれない。

動機は、美しくなくて構わないのです。

その「美しくない」石を、
歳月が、人の心が、
いつしか美しいものに変えていく。

石は、何も変わりません。

建てた日のまま、
同じ場所に、ただ在るだけです。

変わるのは、こちら側の心です。
その心が変わった日に、会いに行ける。

それができる場所が、そこに在る。

お墓を建てるということの意味は、
そうしたことなのだと、私は信じています。

では。


この記事は、前回の「鬼を退治したあと、人はなぜ祀ったのか――酒呑童子と首塚と石塔の話」の続きです

※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。

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