昔は「硬い石」と言われた本小松石。長く使われてきた理由と、その魅力
2026年10月21日(水)
こんにちは。
川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。
私がまだ若かった頃のことです。
お墓に本小松石を選ばれた
お客様のお宅のおばあさんが、
こんなことをおっしゃっていました。
「小松は硬い石だから」
今でも、その言葉を覚えています。
現在、お墓に使われている石の多くは、
花崗岩、いわゆる御影石です。
私たち石屋が加工するときの感覚では、
本小松石は御影石に比べると柔らかい石です。
それなのに、なぜ硬い石だと言っていたのか。
昔のお墓に使われていた石を考えると、
その理由が見えてきます。
かつて関東では、厚木の七沢石や、
房総半島の鋸山で採れた房州石なども、
お墓の石として使われていました。
うちで扱ったことがあるかはわかりませんが、
鎌倉周辺で採れた鎌倉石もあります。
七沢石や房州石、鎌倉石は、
凝灰岩や凝灰質砂岩と呼ばれる石材で、
いずれも比較的柔らかく、
加工のしやすい石といえます。
そうした石が使われていた時代に、
安山岩である小松石は硬く、丈夫な石として
評価されていたのでしょう。
ちなみに、本小松石の圧縮強度は、
195.68N/mm²という数値が
日本石材産業協会の資料に掲載されています。
硬いとされる花崗岩の中にも、
これを下回る数値の石があります。
もっとも、私は石の良し悪しを
数字だけで判断することを、よしとしません。
実際に石を扱ったときの感覚や、
長い年月を経た石の状態なども、
石を見るうえでは大切だと思っています。
小松石は、
古くから石塔や石造物に使われてきました。
鎌倉時代の五輪塔や宝篋印塔などにも、
真鶴や伊豆方面で産出した安山岩系の石材が
使われています。
その石質が評価され、身分の高い武士のお墓や、
お坊さんのお墓などにも使われてきました。
江戸時代になると、伊豆方面の石は
江戸城の石垣にも大量に用いられています。
ここで見逃せないのが、
重い石を運ぶための条件です。
真鶴や伊豆半島は海に面しています。
今のようにトラックやクレーンのない時代、
重い石を陸路で長い距離運ぶのは
とても困難なことでした。
その点、伊豆方面で採れた石は、
船に積んで江戸へ運ぶことができました。
大量の石を運ぶには、陸路を行くよりも
海上輸送の方がずっと効率的だったはずです。
石の品質に加えて、
船で運べるという地理的な条件も、
江戸をはじめとする関東各地で
広く使われてきた理由の一つだったのでしょう。

本小松石の採掘場(2008年撮影 神奈川県真鶴町・海野石材店様)
なお、現在の本小松石と、
かつて真鶴半島側で採掘されていた新小松石は、
同じ石ではありません。
また、伊豆半島では
安山岩系の硬い石材だけでなく、
凝灰岩系の柔らかい石材も産出していました。
古い石塔に使われている石を、すべて今の
本小松石と考えることはできません。
それでも、何百年も前の石塔が今なお
形を残していることは、伊豆半島の安山岩が
優れた石材として評価され、
使われてきた証しの一つだと思います。

鎌倉・浄光明寺の覚賢五輪塔。長い年月を経て残る石塔。
さて、現在の本小松石には、
硬さとはまた違った魅力があります。
磨いたときの、グレーがかった渋い緑色。
あの落ち着いた色合いは、
日本人の感性にも合うように思います。

本小松石の石目。磨くことであらわれる、落ち着いた色合い。
ただ、私自身は本小松石については、
磨き仕上げよりも
叩き仕上げやノミ切り仕上げの方が、
この石の良さを感じることがあります。
ノミや叩きの跡がきれいに現れ、
何ともいえない石の表情が出てくるからです。

亀川石材店様 製作の本小松石一石五輪塔。叩き仕上げの石肌。
それに、本小松石を磨いて使った場合、
年月がたつにつれて
表面に変化が現れることがあります。
縞模様のようなものが見えてきたり、
墓誌の文字を彫っていない部分に、
ノミで細かく突いたような
白っぽい点々が現れたり。
私も実際に、そういう石を見てきました。
磨いた表面の状態が、
何か影響しているのかもしれませんが、
はっきりとした原因までは分かりません。
そんなこともあって、本小松石は無理に磨かず、
むしろ、叩き仕上げで使うのも
いいのではないかと思っています。
また、石の変化を抑えるために
防水剤などを塗る方法もありますが、
それによって小松石らしい自然な風合いの変化が
損なわれることもあるかもしれません。
本小松石は、年月とともに
少しずつ表情が変わっていく石でもあります。
お客様に説明するときにも、
そんな変化を楽しんでいただける石だと
お話しすることもあります。
もちろん、建てたときの状態が
できるだけ長く続くことを望む方も
いらっしゃるでしょう。
それも石を選ぶうえで大切なことです。
ただ、何百年も前の小松石の石塔を見ると、
つくづく、年月を重ねた石には、
新しい石にはない味わいがあると感じます。
若い頃に聞いた
「小松は硬い石だから」という言葉。
当時は不思議に感じた言葉ですが、
今になって振り返ると、
昔の人たちがこの石を選んできた理由も、
分かるような気がします。
そして私自身、今の時代に本小松石を使うなら、
その落ち着いた色合いや、
年月とともに変わっていく石の表情も
大切にしたいと思っています。
では。
【関連記事】
・本小松石の産地 真鶴に行ってきました。
・お墓に選ばれてきた日本の石――その安心感と価値
![]()
※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。
現地確認。お見積り・ご提案はすべて無料です。
(有)吉澤石材店 吉澤光宏
ご相談・お問合せは、お気軽にどうぞ。
電話 044-911-2552 (携帯転送なので外出先でもつながります)
メール お問い合わせフォーム


