石には、石造物にはオンリーワンの物語がある~そのひとつ、登戸の町石屋の物語


川崎登戸の町石屋、吉澤石材店の吉澤光宏です。

こちらの小さな狛犬。

たぶん福島の江持石で作られていると思います。弊社の庭に灯籠などと一緒にずっと置かれていました。

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店頭にあるのですが、これは売り物ではありません。

既に欠損部分もありますし、対になる狛犬の方は脚の部分が折れ、土台部分はもうどこに行ったのか見当たりません。

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この狛犬は、実は、会ったことのない私の祖父が手掛けたものです。

父の話によると、戦争で出征する前に作っていたそうです。どこかに納めるつもりだったのか、あるいはそのつもりで作り、欠損し、納めることなく終わってしまったのか。

それは祖父が帰ってこなかったため、父にもわからなかったそうです。

祖父がどんな人だったのか、今の私には知るすべはありません。遺影で見る以外の祖父を知ることは、かないません。

曾祖父が手掛けた石造物は、近隣各地に『吉澤耕石』の銘が入り存在しています。

けれど若くして戦死した祖父の名、『吉澤藤三』が刻まれた石造物は、残念ながら見かけることがありません。

そんなこともあるせいか、この狛犬を目にすると祖父への思いを募らせてしまいます。

どんな人だかもわからないのに、何だか矛盾していますよね(笑)

それでもこの狛犬を通じて、祖父の息遣いや温もりが感じられるような気がしてなりません。

出生前に仕上げられるよう、頑張って彫刻したんだろうな。どんな思いで家族を残して出征していったんだろうな。生きていたら可愛がってくれたかな…。

ほとんど情報がないのに、いろいろな思いが巡ります。

長い時間を生きる『石』は、『石造物』は本当に雄弁に語りかけてくれます。それを建てた施主の思いや作り手の気持ちが伝わってくる気がします。例えそれが名品と呼ばれるようなものでなくともです。

だから私は、狛犬を通じて祖父と会える(通じる)ことができるんです。

 

多くの人にそうした『思い』を、そこにしかないただ一つの『物語』を感じてもらいたい。

石を扱うものの一人として、私はこんな願いをもっています。

あなたにとってお墓が、そうした物語にあふれたものでありますように。

また、よろしくお願いします。


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