地震と石造物──10年の経験が教えてくれたこと
2026年1月21日(水)
こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。
2015年に、私はこんなブログ記事を書きました。
「地震に関する雑考」というタイトルで、
東日本大震災の後に近隣の神社で目にした光景
について綴ったものです。
あれから10年。2024年、2025年と能登半島で
災害支援活動に携わり、倒壊した墓石や
石造物の整理作業を行う中で、
あの時書いた言葉が再び心に蘇ってきました。
同時に、10年前には気づいていなかった、
もっと根本的な問題も見えてきたのです。
高さ3.6メートルの灯籠が倒れた

東日本大震災の後、私は川崎周辺の墓地や
神社仏閣を回って被害状況を確認しました。
幸いなことに川崎あたりでは、
墓石の転倒はほとんど見かけませんでした。
しかし、灯籠はかなり動いたり倒れたり
していました。
ある神社で目にしたのは、
完全に倒壊した大型の春日型灯籠でした。
高さ12尺、つまり約3.6メートルもある
立派なもの。
茨城県の石屋さんが、
この神社の玉垣を施工した時に奉納していった
ものだそうです。
これだけ大きく重量もあるものなら、
小さな墓前灯籠が倒れても大丈夫だろうと
思うかもしれません。
だが現実は違いました。
結局はバランスなのだと思います。
特に春日型の灯籠は上部が重いので、
揺れに対して脆い。
また、以前の工法では
この手の庭灯籠は重ねてあるだけで、
セメントを使ってもガタ止め程度、
目地もしないことが多かった。
ただ、当時の標準的な工法に照らすと
こういった据え付け方自体は決して手抜きでは
ありません。
庭灯籠は、目地をするのは野暮ったいことと
言われることがありましたし、
もともと倒れるたびに起こして
利用していたという歴史的背景もあります。
基礎がなかった
しかし、この灯籠には
もっと根本的な問題がありました。
これだけ大きなものなのに、
基礎コンクリートを打設せず、
ただ土の上に重ねて置いてあったのです。
参道のすぐ脇、人が通る場所に。
たまたま人がいなかったから
良かっただけの話です。
命に関わる可能性があったからこそ、
厳しい言い方をあえてします。
人が通る場所に、
これだけの大型石造物を基礎もなしで据える
──これは探求心や推察することを放棄した、
無責任な施工だと断言します。
片付けと廃棄を依頼されたのですが、
基礎コンクリートがないおかげで
作業ははかどり、費用も抑えられました。
でも、それはあくまで結果論に過ぎません。
一方、同じ境内で、
以前に弊社で建立した神前型灯籠は
無事に建っていました。
こちらは基礎コンクリートを
しっかりと打設して、施工してあります。
形が春日型に比べると安定していたことも
あるでしょう。
それでも、基礎の重要性を改めて認識しました。
ただし、これは地盤が比較的良好だった
現地周辺での話です。
地盤の条件が変われば、
結果もまったく違ったものになります。
自社の失敗も隠さない

手前味噌な話ばかりではいけません。
実は、私のところで40年ほど前に施工した灯籠も
倒れてしまいました。
お恥ずかしい話ですが、
昔の施工だとこういったこともあるのです。
この灯籠は台座の上に乗っていて、
重心が高くなっていたことも
影響していたと思います。
当時、弊社で施工した庭灯籠で、
東日本大震災で倒れたのは二基。
墓前灯籠も数基転倒がありました。
ただ、この被災件数は、地震の震源までの近さや
揺れの具合によって、
いくらでも変わるものだと思っています。
もう少し揺れが強かったり長かったりしたら、
無事だった灯籠も壊れていた可能性は
十分にあります。
10年を経て──変わったこと、変わらないこと
あれから10年。
墓石の耐震技術は進化しました。
すでに変成シリコンをはじめとした
接着剤工法は定着して久しいです。
補強金具も取り付けたりもします。
トップベース工法のような、
防振効果や耐震性を与える技術を
取り入れることもあります。
弊社でも一度施工した実績があります。
今後はさらに、
経験を積み重ねていきたいと考えています。
探求心を持たず、ただ今までと同じことを
経験則のままにやっているだけでは、
いけないと思います。
有益な情報を集め、昨日よりも今日のほうが、
より強い建墓工事ができるように努める。
そういった姿勢が求められるのだと思います。
能登半島で見たもの
2024年、能登半島地震の後、
私は現地で災害支援活動に携わりました。
地元の石材店を支援し、
倒壊した墓石の整理作業を行う中で、
10年前の記憶が鮮明に蘇りました。
そして、能登で実感したのは、
地域によって基礎工事のスタンダードが違う
ということです。
これはお墓の形の違いによる
設計思想の違いも大きいのだと思います。
しかし、能登で目の当たりにしたのは、
基礎の差だけではありませんでした。
地盤そのものが数十センチも隆起したり、
沈下したりしている場所がありました。
地崩れに巻き込まれた墓地もありました。
液状化を起こした地域もありました。

※お墓の写真ではありません。
地震による地盤の隆起・沈下の一例です。
そうした場所では、
どんなに基礎工事をしっかりやっていても、
どんなに優れた耐震工法を施していても、
墓石は無事ではいられなかったのです。
地盤という現実──技術の限界
これが現実です。
トップベース工法のような技術は効果的です。
これは間違いない。
しかし、地盤が数十センチも隆起すれば、
地盤が崩れれば、墓を保持しようもない。
おのずから限界はあるのです。
地盤が良好であれば、
基礎の多少の差を補ってくれることもあります。
逆に、どれだけ丁寧な施工をしても、
液状化や地崩れに巻き込まれれば壊れてしまう。
同じ地域でも地盤で揺れは変わります。
そして同じ墓地の中でも、
区画によって揺れ方が違うことがある。
基礎工事よりも、耐震技術よりも、
もっと根本にあるのが地盤なのです。
地盤を読む──地名を舐めてはいけない
では、地盤の良し悪しを
どうやって判断するのか。
一つは近くの墓を確認することです。
古い墓が一定方向に傾いていないか、
沈下していないか。
そういった痕跡から、地盤の状態を
読み取ることができます。
もう一つは地名です。
サンズイのある地名──川、沼、池、浜、津、沢
といった文字が入っている場所は、
水に関係している土地である可能性が高い。
液状化のリスクも考慮に入れるべきでしょう。
地名を軽く見てはいけません。
地盤調査会社の方も、地名である程度は
地盤を推察できると言っていました。
地名は、その土地の成り立ちの痕跡を
含んでいることがあるからです。
ただし、地名だけで断定はしません。
近隣の墓の状態を見る、地形を観察する。
そして必要に応じて、
地盤調査も取り入れています。
石屋としての経験と知識を総動員して
地盤を読み、確かめる。
これも大事な仕事です。
限界を知りながら
正直に言いましょう。
石屋としてできることには限界があります。
ビルが倒れ、山が崩れるような
地震が起きたとき、どうして墓のみが
それに耐えられるでしょうか。
地盤が崩れるような大災害が起きれば、
私たちの技術では墓石を守りきれません。
それは事実です。
ただ、程度の問題もあります。
「絶対に安心です」などという
空虚な言葉を発することはできませんが、
できることは確実にあるのです。
地盤が良好な場所であれば、
基礎工事をしっかりやることで、
墓石を守れる可能性は高まります。
耐震施工を施すことで、
被害を軽減できる可能性もあります。
そして、地盤の良し悪しも含めて、
墓地を選ぶ段階から、正直にお伝えすることもできます。
「この場所は地盤が軟弱な可能性があります」
「ここは川に近く液状化のリスクがあります」
──そういった情報を隠さずに提供することも、
石屋の仕事だと思っています。
仕事で安心を残したい
言葉で安全を訴えるのではなく、
きちんとした仕事でお墓づくりをしたい。
私はいつもそう考えています。
できることと、できないことを正直に伝える。
そして、できる範囲で最善を尽くす。
地震大国である日本で石造物を扱う以上、
たとえ目に見えない部分であっても、
後世に残る仕事をする。
それが石屋としての責任だと思っています。
10年前に書いた記事の最後に、
私はこう記しました。
「とにかく地震が起きた時には
石の近くに行かない方が賢明です」と。
この言葉は今も変わりません。
しかし同時に、
地震が起きても倒れにくい施工を追求し続ける。
そしてその限界を正直に伝えること。
それもまた、石屋として大事なことだと
改めて思います。
では。
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