お墓という筬(おさ) 海と墓地と、人の営みについて
2025年12月10日(水)
こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。
2022年6月のこと、鳥取県琴浦町の花見潟墓地を
訪れました。
海岸沿いに2万余基以上の墓石が並ぶ、日本最大級
の自然墓地です。

鳥取県琴浦町・花見潟墓地。海岸沿いに墓石が並ぶ雄大な景色
小泉八雲が妻セツと共に訪れ、
「人力車で通り過ぎるのに15分かかる」と記した
とされるその場所は、実際に目にすると、
まさに圧巻でした。
吹きさらしの墓地が、なぜ美しいのか
確かに吹きさらしの環境です。
海風が容赦なく吹き付け、潮を含んだ空気が
墓石を覆います。
石材店の目で見れば、墓石にとって厳しい条件
であることは間違いありません。
だが、そんなことは全く気になりません。
むしろ、この開放感こそが
花見潟墓地の魅力なのだと感じました。
海と空とお墓。
それだけのシンプルな景色なのに、
妙に心が落ち着く。
日本海の青と、風に揺れる草と、
灰色の石が織りなす景色は、驚くほど美しいのです。
中世後半から続く墓地には、
すでに朽ちかけているお墓もあります。
墓守する人もいなくなっているのかもしれません。
だが、それすらもこの場所の歴史の一部として
自然に溶け込んでいるように見えました。
この墓地には、有名な「赤碕塔」もあります。

花見潟墓地に建つ赤碕塔
安倍晴明の墓というのは伝承の域を出ませんが、
その石造物の見事さは間違いありません。
縦糸と横糸、そして筬(おさ)としてのお墓
昨年10月、この花見潟墓地が
NHK「ドキュメント72時間」で取り上げられました。
そこに映し出されたのは、
この場所を訪れる人々の姿でした。
お墓参りに来る人々の表情、死者への思い。
そして2年前に訪れたあの風景を
鮮やかに思い出させてくれました。
番組に登場した人たちの言葉を聞きながら、
私は「縦のつながり」と「横のつながり」の
ことを考えました。
昨今は家族構成の変化などもあり、
縦糸(家系や血縁のつながり)よりも
横糸(現世のつながり)ばかりに軸足を置いた
かのような情報発信を、多く見かける気がしています。
しかし、それではどうしても偏りが出てしまう
のではと感じます。
例えば、血縁以上に親しい友人のような
「選ばれた大切な縁」を、この「織物」の中に
どう打ち込み、未来へ繋ぐかという、
現代的な課題に答えが出ません。
きっと、変化してきたものは
もう元には戻らないでしょう。
人とお墓の距離感や思いの変化。
それは家族のかたちが変わったからだけでは
ありません。暮らし方も、働き方も、価値観も、
そして時間の使い方すら、私たちの親の世代、
祖父母の世代とは大きく異なっています。
しかし、本質的な部分において、
人はそう簡単に変わるのでしょうか。
人は年齢を重ねることで、考え方や気持ちにも
変化はあらわれるはず。
日本人としての在り方を考えたとき、
この縦糸と横糸をバランスよく紡ぎ、織り込んで
いくことこそ、今を生きる私たちが、
意識していかねばならないことではないでしょうか。
そしてその縦横の糸を織り上げるとき、無くては
ならないのが、糸をそろえ打ち込む道具である
『筬(おさ)』です。
筬がなくては、しっかりとした織物には仕上がりません。
私は、従来通り「家墓」を大事にし、
先祖との縁を大切にすることが、
この織物の縦糸の強さの根幹であると信じます。
ただ、この『筬』は、時代と共に新たな価値観を
受け入れていくのかもしれません。
従来の「血縁・家」という縦糸が担ってきた
機能に加え、近く親しい友人との縁といった
血縁を超えた大切な縁を未来へと打ち込み、
永続させる機能を持つこと。
正直に言えば、寂しさもあります。
しかし、形が変わっても「お墓」が大切にされる
なら、 それは受け入れていきたい。
人の営みが変わる以上、筬もまた、
その形を変えていくのかもしれませんね。
次の世代へ、つなぐために
価値観も選択肢も「何でもあり」
のように見えるこの時代。
お墓の本来の役割、本当の力を
もっともっと多くの人に知ってもらいたい。
そして生者が死者と共に生きる、
私たちが紡いできた精神的な文化を、
新たな価値観の受容という形で、
何とか次の世代にも繋げていきたい。
そう思わずにいられません。
花見潟墓地が教えてくれたのは、
お墓が単なる「石の構造物」ではない
ということでした。
それは過去と現在、生者と死者をつなぐ場所
であり、個人が選んだ大切な縁や、
日本という織物が、次の時代へと続いていく
ための、かけがえのない「筬」としての役割を
担っているのです。

花見潟墓地近くの日本海。青い海と空が広がる海辺の風景
あの、海辺の風景を思い浮かべながら、
改めてそう感じています。
では。
※2025年に読んだ婦人公論の記事(小泉八雲と
花見潟墓地)が、本記事を書く一つのきっかけになりました。
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