犬島石の叩き仕上げ五輪塔|時間とともに育つ美しさ

2025年9月22日(月)


こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

2020年11月に犬島石の丁場見学についてブログでご紹介しましたが(前回の記事)、その時のご紹介した犬島石(白)の叩き仕上げ3尺五輪塔が、今でも弊社に陳列してあります。約5年の時を経て、今朝あらためて撮影してみました。

3尺五輪塔の存在感

犬島石(白)の叩き仕上げ五輪塔

展示場に佇む犬島石(白)の叩き仕上げ3尺五輪塔。

台石(一番下の四角い部分)から空輪(一番上の宝珠形)まで、すべて叩き仕上げで仕上げています。

3尺(約90㎝)ながら、背景に見える磨き仕上の石塔と比べても、その存在感は際立ちます。

叩き仕上げの質感と経年変化

叩き仕上げは、表面を細かく叩いて凹凸をつけることで、光をやわらかく受けて陰影を生みます。磨き仕上げが「完成した瞬間が最も輝く」仕上げだとすれば、叩き仕上げは「時間とともに育つ」仕上げ。いわば“経年深化”です。

朝日に照らされた叩き仕上げの石面。

年月とともに表面には汚れや水跡がつきますが、それが逆に味わいとなり、落ち着いた風格が出てきます。庭の灯籠や古い石段が、時を経てより魅力を増していくのと同じですね。

もちろん表面はざらついているので、雑巾で拭いただけでは汚れは落ちにくいです。でも、それこそが叩き仕上げの魅力。無理に高圧洗浄などで真っ白にすることなく、少しずつ色が深まり、落ち着いていく様子を楽しんでいただきたいと思います。

磨き仕上げとの違いと選び方

磨き仕上げは、外に据えたときが最も艶やかで、年数とともに艶が落ちていく傾向があります。これは風雨や日差しを避けられない以上、ある意味で仕方がないことです。

逆に叩き仕上げは、雨や風を受けながら年々落ち着いた表情になり、見る人の心に静かに響く存在になっていきます。(エイジングですね)

どちらが優れているという話ではなく、好みと考え方の違いです。長い目で見て、どういう経年変化を楽しみたいかを考えて選ぶと良いのかもしれません。

歴史が証明する叩き仕上げの耐久性

鎌倉時代の後期や室町時代に造られたノミ切り仕上げの石塔が、今も各地に現存しています。700年、800年という年月を超えて建ち続けるその姿は、叩き仕上げの耐久性と魅力を伝えてくれていると思います。

西大寺奥院五輪塔(鎌倉時代後期)

雨の日には水を吸いやすく、晴れればすぐに乾いていく。まるで石が呼吸をしているかのようです。

長い年月を経ても健全な状態を保てる理由のひとつかもしれません。

雨に濡れる犬島石の表情

展示を通じたお客様との出会い

白手の犬島石は、ほんのりと暖色を帯びたやさしい色合いです。青みのある花崗岩とは異なり、穏やかな印象を与えます。

実は、この五輪塔を展示してから約5年。幾度かお嫁入りをする可能性もありました。

ご覧いただいたお客様の中から、たまたま他の石種で叩き仕上げの五輪塔をご注文いただいた方もいらっしゃれば、「叩き仕上げも良いけれど、やっぱり磨きで、しかも犬島石のサビで」とおっしゃって、犬島石のサビ磨き仕上げの五輪塔を選ばれた方もいらっしゃいます。

実物を見て触れていただくことで、お客様それぞれの好みや価値観に合った選択をしていただける。これこそ叩き仕上げ五輪塔を展示している意味だなと実感しています。

五輪塔というかたち

五輪塔は、地・水・火・風・空の五つの要素で宇宙を表現する最高の仏塔の一つです。難しい教義はさておき、端的に言えば「故人が成仏し、極楽往生できる」とされる石塔。亡き人を仏様として見送りたいと願う方にとって、最も象徴的なお墓だと思います。

弊社に展示の五輪塔は3尺というサイズですが、個人墓所にも広い墓所にも合わせやすく、威厳を保ちながら圧迫感のない絶妙なバランスだと思います。(以前に川崎市営の緑ヶ丘霊園寺院墓地の6㎡程度のお墓にも建墓した実績があります)

叩き仕上げの素朴な表情が、この象徴的なかたちと調和して、見る人に静かな安心感を与えてくれます。

おわりに

瀬戸内海の小島で採石され、歴史的な城郭や石垣にも使われてきた犬島石。その特性を活かした叩き仕上げの五輪塔は、時間とともに落ち着きを増し、長く愛される存在になると思います。

この五輪塔は現在も弊社にて展示しております。叩き仕上げならではの質感や陰影を、ぜひ間近で確かめていただきたいと思います。(※現場に出ていることが多いため、ご来店前にお電話いただけますと確実です。)

では。

※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。
お墓以外にも石鳥居や記念碑のお仕事も承っております

似顔絵(有)吉澤石材店 吉澤光宏

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