解体≠墓じまい。「見た目のマジック」とお墓の再出発

2025年11月20日(木)


こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

昨日、「墓じまいの数字の見え方」について書きました。
墓じまいが10年で2倍になった、不要墓石が2万5000基ある……。
そうしたインパクトの強いニュースに、
現場として少し違和感があるという内容でした。

今回は、その続きとして。
『壊しても墓じまいとは限らない』 という
もう一つの現場のリアルを書いてみたいと思います。

壊す≠墓じまい

ある寺院墓地にある、お墓の相談を受けたときのことです。
代が変わり、直系の継承者はいなくなる。

解体前の墓所。大谷石製の外柵、コンクリート製の石塔中台

しかし、甥御さんが「家の墓として自分がついでいく」と
手を挙げてくださいました。
傍系であっても、お墓はきちんとつないでいくことができます。

ただ、現場を確認すると課題がいくつか見えてきました。

外柵は大谷石製で、長年の風雨にさらされ角は丸くなり、
だいぶ傷んできていました。

さらに納骨室は現場打ちのコンクリート製で、
収蔵可能な骨壺の数はわずか4つでした。

前回納骨時に、お骨をおさめて計4つ収蔵。
今回ご不幸があって、5つ目のお骨を納めなくてはなりませんでした。

それだけでも限界ですが、致命的だったのは
納骨室に水抜き穴がないことでした。

解体した旧墓地の納骨室。現場打ちのコンクリート製で、水抜き穴がありませんでした

上から降った雨がそのまま納骨室内にたまり、
前回の時も、大切なご先祖のお骨が完全に
水没してしまっていたのです。

これは石材店の施工とは考えにくく、
お墓の構造を充分に理解していない業者が
建てたものでしょう。

この状態のまま甥御さんに継いでもらうことは、とてもできません。

つまり今回は、
『お墓を壊すところから、つなぐ作業が始まる』
そうした現場だったのです。

残すために「壊す」。受け継ぐための決断

ご家族と話し合った結果、選択肢は二つありました。

  1. 元の場所に外柵を新しく作って再建する

  2. 同じ寺院内の別の墓域へ移す

今回は後者の「移す」という選択に。

偶然、同じ寺院内に、外柵は完成しているものの、
まだ使用者が決まっていない区画がありました。

そこへ石塔を移すことで、同じお寺で変わらずに
ご先祖を供養していくことができます。

ご親族間でいろいろな条件を考慮され、
納得されたうえでの判断でした。

したがって、元の区画は、外柵も石塔の中台(コンクリート製)も、
すべて解体します。

解体が終わり、更地になった様子だけを見ると、
誰の目にも“墓じまい”ですよね。

解体工事が完了した旧墓所

石塔がなくなり、外柵がなくなり、更地が残る。
そこだけ切り取れば、「あぁ、墓じまいなんだな」と思われても
仕方ない光景です。

しかし実際にはまったく逆で、
お墓は終わるどころか「これからまた始まる のです。

新しく作り直すことで、次の世代へつながる

移した先の新しい墓所では、
旧墓地の弱点を一つ一つ解消しながら再構築を行いました。

  • 中台・芝台(石塔の下のほうの部材)を御影石で新調

  • 水鉢も切出しの一体型に変更
  • 香炉も新調

新調した芝台(しばだい)。納骨室の屋根と石塔の土台を兼ねる石です

旧墓地では中台がコンクリート製で、再利用には向きません。
加えて納骨室の屋根になるべき芝台がない。

それを今回はすべて御影石に作り替え、据え付けます。
耐久性・安定性ともに何十年も耐えていけるお墓になります。

古い墓所から移設。御影石の中台・芝台・切出水鉢・香炉を新調し、立派なお墓になりました。

大きな災害がなければ、
甥御さん、そして次の世代へと、しっかりつながっていきます。
その土台がようやく整ったと言えるでしょう。

現象ではわからない、目に見えない想い

今回の現場のように、

  • 墓地の継承者はいる

  • 供養は続く

  • 石塔も残し、むしろ以前より良い形で再建される

あるいは、生活圏の近くにお墓を引っ越す。
こうした事例は決して少なくありません。

にもかかわらず、
旧墓地は更地になるため、
外から見れば墓じまいにしか見えない。

これが、前回の記事で書いた
『数字のマジック』に加えて『見た目のマジック』です。

数字は実態を映さないことがある。
そして、目に入る風景もまた、必ずしも実態を映しているとは限らない。

現場には、
壊しても終わらない、壊すことでつながるお墓
が確かに存在します。

お墓は壊して終わる場所ではなく、家族の物語を紡ぐ場所

墓じまいを否定したいわけではありません。
必要な墓じまいもありますし、
どうしても継ぐ人がいないケースもあります。

しかし、

「壊している」=「終わらせている」と
一足飛びに結びつけてしまうのではなく、
その背景にある事情や、残そうとしている想いにも
目を向けてみたいところです。

お墓は、本来 『つなぐための場所』 です。
状況によっては壊すところから始まることもありますし、
場所を移すことでつながることもあります。

寺院墓地や霊園で、隣や近くの区画が更地になっている。
そんな光景を目にする機会が増えているかもしれません。

「やっぱり墓じまいが増えているんだ」
「うちもそろそろ決断しないと……」

そう感じて、焦ってしまう方もいらっしゃるでしょう。

でも、その更地が本当に「墓じまい」なのか、
それとも今回のような「移転」や「建て替え」なのかは、
外から見ただけでは分かりません。

大切なのは、周りの状況に流されず、
ご自身のお墓について、ご家族とじっくり話し合うこと。

継ぐ人がいるのか。お墓の状態はどうなのか。
これからどうしていきたいのか。

その答えは、ご家族ごとに違うはずです。

「壊す=終わり」と決めつけず、選択肢を知ったうえで、
納得のいく決断をしていただきたい。

私は、そう願っています。

では。


▼前回の記事:
墓じまい、その「数字のマジック」と現場のリアル

※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。

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(有)吉澤石材店 吉澤光宏

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