お墓と向き合う者として。 一介の町石屋が能登支援で感じたこと

2025年11月17日(月)


こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

今回の能登災害支援活動について、まとめておきたいと思います。
同行したのは、川崎の石材組合の若手2名。

去年、今年と行われた災害支援ですが、私はそのうち2回、計4日間だけ
の参加にすぎません。それでも、何かが変わったと感じています。

正直に言えば、東日本大震災や熊本地震のときには
復興活動には目が向いていませんでした。

支援に携わる方々を「立派だなあ」と思いながらも、遠方なこともあり
日々の仕事に追われるうちに、気づけば何年も過ぎていました。

今回、能登へ向かう決心をした自分の気持ちの変化。
それがなぜなのか、自分でも明確な理由はわかりません。

ただ、きっかけは「ちょっと行ってみようか」という小さな一歩。

それが自分の目で見て、体で感じて、初めて“実感”に変わる。
そんな体験だったと思います。

斜面に残された倒れたお墓たち

一日目の現場は輪島市、海沿いから少し入った山のふもとのお寺。
地震による倒壊にくわえ、さらにその後の豪雨災害の土砂によって、
お墓が下の方へと押し流されてしまった現場でした。

地形は急斜面。重機などは入れず、完全に人力での作業です。
石は斜面下へ落ち、お骨は土に埋もれ、土台ごと崩れた墓石も少なくありませんでした。

そんな状況下で、どれがどの家の石塔だったのか、どれがどの部材だったのか。
それを推察する、石職人の現場感覚が問われます。

私も同行の若手も、普段の仕事の延長とはいえ、いつもとは勝手が違います。
担ぎ棒やスリングを使い人力で石を担ぎ上げます。

写真を撮る余裕もなく、記録に残せたものは多くありません。

それでも確かに、「この石はここにあったもの」「この蓮華座はここに合う」と
斜面の下や、土の中から“かつてのお墓の姿”を想像しながらの作業に、
石屋としての経験が生かされる場面が何度もありました。

支援とは、誰のためか

番号管理された要整理の倒壊墓石(七尾市・11/14 写真提供:B・B貿易 田中社長)

「情けは人のためならず」といいますが、
今回の支援でも、それをしみじみと実感しました。

支援活動とは、もちろん第一義的には被災地のためのものです。
しかし同時に、それは参加した自分たちの心や視野、災害時の備え、
そしてこれからの仕事にも深く関わってくる営みだと思うのです。

たとえば、今回の現場での経験は、災害時に備えたお墓づくり
を考えるうえでも、大きな学びとなりました。

また、同行した若手二人にとっても、
他では得難い特別な経験になったはずです。

一介の町石屋が参加する意義

私はインフルエンサーでも、大きな石材店の社長でもありません。
ただの一介の町石屋です。

ですが、だからこそ伝えられることもあるのではないかと思っています。

立場がある人や資金が潤沢な会社が動くのも大事です。
でも、「アイツが行っていたなら、自分も手伝えるかもしれない」。
そう思ってくれる人が一人でも増えたなら、それだけで意味がある気がするのです。

誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分たちの手で少しずつ。
石屋の世界でも、そんな横のつながりをつくっていけたら。

去年、今年の能登支援活動では、そんな思いを強くしました。

最後に

今回の支援活動では、倒壊した墓石を整理し、
安全を確保するところまでを担いました。

その作業は、決して完全な復旧ではありません。

それでも、
「傾いていた棹石が仮置きでも立てられ、手向けられた花を見た。嬉しかった。」
という、災害活動に主体となって動いている石屋さんの言葉を聞きました。

やっぱり人はお墓を大事にしているのだと、あらためて思います。

派手さのない作業ですが、それでいいのだと思います。
能登でも、地元川崎でも、私たちがやるべきことは大きくは変わらない。

そんな実感を、今回もまた心に刻んで帰ってきました。

では。


※今回の支援活動の流れを、以下の記事でも紹介しています。
・2025年11月11日公開「明日、奥能登へ――川崎の石屋が若手に伝えたい経験とは」
・2025年11月12日公開「輪島まで24km――去年と同じ道、変わったこと、変わらないこと」
・2025年11月15日公開「能登支援は、未来への備え。一人の負担を、百人で分け合うために」

※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。
お墓以外にも石鳥居や記念碑のお仕事も承っております

似顔絵(有)吉澤石材店 吉澤光宏

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