その墓じまい、本当に今でいいの?──流されない墓じまいのすすめ

2025年8月25日(月)


こんにちは。川崎市多摩区の石屋、吉澤石材店の吉澤です。

処暑を過ぎたはずですが、まだ真夏のような残暑が続いていますね。気がつけば「墓じまい」という言葉を目や耳にするのも、すっかりと当たり前になってきました。今日はその「墓じまい」について、私自身の思いを少し書いてみたいと思います。

墓じまいは決して悪いことではない

最近は「墓じまい」、いや「墓所解体」のご依頼をいただくことが確かに増えてきています。もちろん、高齢になって管理が難しくなったり、後を継ぐ方がいなかったり、遠方で維持ができなくなったりと、やむを得ない理由で墓じまいをされるケースもあります。そうした判断は、むしろきちんとした供養の形を考え抜いた末の立派な選択だと私は思います。お墓を片づけることそのものを、私は決して「悪いこと」だとは考えていません

墓所解体の現場にて。堅牢だからこそ、解体には大きな手間がかかります。

現実にある悩みと難しい側面

お墓参りができずに荒れ放題になってしまった墓地があるのは事実です。遠方にあったり、ご自身の体調の関係でどうしてもお参りに行けないというケース。真剣にお墓を思うからこそ、かえって切羽詰まってしまう方もいます。そうした方々のお気持ちや、お墓じまいの選択を否定することなど私にはとてもできません。

ただ一方で、さしたる事情もないまま放置され、荒れてしまうお墓が絶対にないとも言い切れません。つまり「守りたくても守れないお墓」と「放っておかれ荒れてしまうお墓」の両方が存在するのです。だからこそ、墓じまいというのは「きれい事」だけでは済まない難しい側面を常に抱えているのだと感じます。

だからこそ、もし「管理が大変だから」という理由であれば、いきなり解体に踏み切るのではなく、それ以外の方法も考えてみる余地があるのではないでしょうか。たとえばお墓に草や雑木が生えにくいようにする工事など、石屋にご相談いただければ。出来ることは案外あるものです(もちろんそうした工事にもある程度の費用はかかってしまいますが)

それでもいざ解体となれば「そんなにかかるのか」と驚かれることも少なくありません。けれど実際の現場作業は人力だけではとても進みません。お墓の解体には人件費や廃棄物処分費、重機使用料や廃材搬出など、どうしても多くの費用がかかります。これは現場で日々作業する者として、私自身が身をもって感じる現実なのです。

「今でいいのか?」という疑問

そしてもう一つ。お話を伺っていると本当に「今でいいのか?」と思うような事例に出会うこともあります。顕著に多いわけではありません。でも、ふわっとした(あいまいな)理由のままお墓の解体が進んでしまうことを見ると、将来「なぜあの時代の人たちは…」と残念がられてしまうのではないかと心配になります。

最終的なお墓じまいという結果は同じでも、「なぜ今なのか」を冷静に考えるかどうかで、その意味合いは大きく変わると私は思うんです。

もしその選択が、子孫たちから嘆かれるようなものになってしまったら…果たして本当にそれでいいのでしょうか。

心を救う工夫──「リ墓ーン」

実は、今も墓じまいに伴う墓所解体工事を進めています。もちろん、こちらはご家族が十分に考えたうえでのご決断であり、私としてもそのお気持ちを尊重し、しっかりと作業を進めています。大切なのは、お墓の形がどうであれ、ご先祖を思う心を持ち続けることと強く強く感じています。

思いだすのは、以前北海道の方から「墓じまいをしている様子を見ているうちに、とても悪いことをしているような気がして涙が止まらなくなった」とご相談を受けたこと。お墓は単なる石ではなく、ご先祖さまや家族の記憶が込められた場所なのだと、改めて感じました。

その時は「お墓のみとり」の一環として、解体した石材の一部を使い、家名と家紋を刻んだペーパーウェイトをお作りしました。名付けて「リ墓ーン(リボーン)」という取り組みです。

リ墓ーン。墓石の一部を使い、家名・家紋を刻んだペーパーウェイト

石のかけらに新たな形で命を吹き込むことで、ご先祖とのつながりを小さなかたちとして残す。お渡ししたところ、とても喜んでいただけました。墓じまいに迷いが生じたり心の痛みが伴うときでも、こうした工夫で少しでも救われることがあるのだと、私自身も強く感じたことを思い出します。

流されない墓じまいを

お墓は決して厄介者でも負の遺産でもありません。

そして同時に忘れてはならないのは、ご先祖を思う心がある限り、たとえ解体という選択をしたとしてもそれは立派な供養のあり方の一つだということです。大切なのは、世間の空気や一時の不安に流されて決めるのではなく、自身の軸足をぶらさずに考えること。そこを誤れば、後々「やっぱりお墓を残しておけばよかった」と悔やむことにもつながりかねません。

先日、SNS上の宣伝で「いつまでお墓参りを続けるのですか」といったキャッチコピーを目にしたことがありました。正直なところ大きなお世話じゃないか!と憤りをおぼえました。お墓参りは単なる作業じゃありません。日本人にとって大切な心の営みであり、先祖とつながり、今を生きる自分を見つめ直す時間でもあります。そこを軽んじる風潮が広がってしまえば、私たちの根っこの部分が失われてしまうのではないかと危惧します。

もちろん、墓じまいをするかしないかは、それぞれの家庭により事情が異なります。だからこそ誰かに言われてではなく、また自分だけの思い込みではなく、家族、時に親族ともよく話し合い、思いを共有したうえで決めてほしいのです。

私は石に携わる者として、また日々お墓づくりや管理のお手伝いをさせていただいている者として、「流されない墓じまい」を皆さまにお願いしたいです。お墓を解体することを選ぶにしても、しっかりとした理由と納得のうえでなら、それはきっとご先祖さまに敬意をもった結論であるはずです。避けたいのは「理由なき墓じまい」です。子孫をはじめ、未来の人たちに残念がられるような選択ではなく、むしろ「この時代の人たちはきちんと考えていた」と思ってもらえるような歩みをしたいものです。

これからも私は、皆さまが納得できる形でご先祖さまを大切にできるよう、お手伝いをしていきたいと考えています。

お墓は石。だけどそこに込められた人の思いは生き続けるもの。どなたも思いのバトンをつなげられますように。

では。


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自分の代でお墓を管理する人がいなくなってしまう。そうした方のためには、お墓じまいの生前予約サービス『お墓のみとり®』というものがあります。墓地をお持ちの方が亡くなった後、一定期間にわたりお墓を維持管理して契約の満了後、お墓じまいを行うというサービスです。

  • 守る者がいなくなるけど、家族と一緒のお墓に入りたい
  • 高齢になってはいるが、生きている間は手を合わせる場所を維持したい
  • ​もしもの時(死後)に、無縁墓にはしたくない

そんなふうに思われる方はぜひ一度ご検討ください。

※最後までご覧をいただきまして、ありがとうございます。
お墓以外にも石鳥居や記念碑のお仕事も承っております

似顔絵(有)吉澤石材店 吉澤光宏

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